慶應法学部小論文

2010年慶應法学部小論文をわかりやすく解説

julius caesar marble statue

2010 慶應法学部小論文
解き方のポイントと解答例

設問の解説

今回の小論文においては、ラケダイモーンの立場として、「アテーナイと開戦すべき否か?」に対して意見する必要がある。
アテーナイとコリントスが戦闘状態に入っている中で、両者には両者の、立場や主張がある。それらを十分に吟味した上で、小論文において含めるべき内容は以下のようなものとなる。

  1. ラケダイモーンはアテーナイと 開戦する/しない/それ以外の選択肢 のうちどれかを選ぶ
  2. なぜ、上記の意思決定をしたのか理由を説明する
  3. 2.を回答するにあたって、アテーナイ、ラケダイモーン、コリントスそれぞれの関係性、状況を十分に吟味する

まずは、それぞれの国がどのような関係性、状況なのかを整理しよう。

各国の勢力図と関係性

ラケダイモーンとアテーナイ

古代ギリシャにおいて、ラケダイモーンとアテーナイは二大勢力である。ペルシア戦争後に力をつけてきたアテーナイは徐々に勢力を拡大し、ラケダイモーンの脅威となるほどであった。両者は、休戦協定を結んでおり、現在は対立関係にあるものの直接的な戦争状態にあるわけではない。

ラケダイモーンとコリントス

ラケダイモーンとコリントスは同盟関係にある。ラケダイモーンはヘラスにおける都市国家の中でも大きな勢力であり、コリントスなどの小さな都市国家を帝国主義的に膨張するアテーナイから守る必要がある。

アテーナイとコリントス

アテーナイは、勢力を拡大していく中で、コリントスと衝突し、戦闘状態にある。アテーナイは大きな勢力であり、このまま戦闘状態が続けばアテーナイが勝利するだろう。

ワンポイントアドバイス!図式化して視覚的に捉えよう!

この図のように、実際に解く時にも、図式化して、それぞれ適切な情報を書き込んでいきましょう。文章だけで処理するよりも、図式化したり、表にまとめたりすることでグッと理解がしやすくなります。普段の小論文でも図式化して捉えることを意識しましょう!

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今回の小論文の論点は?

上記の関係性を理解した上で、ラケダイモーンはアテーナイとたたかうべきなのか?

2010年の小論文において、3つの選択肢がある。すなわち

A.アテーナイとたたかう

B.アテーナイとたたかわない

C.それ以外の選択(例えば、アテーナイとは戦わないが、コリントスに物資支援のみ行うなど)

この三つの選択肢に関して、どれが正解、不正解ということはない。どの選択肢を選んだとしても合格点に届くようにできている。しかし、それぞれの選択肢において、妥当な理由や、それに伴うデメリット、リスクなどをきちんと吟味し、論証する必要がある。

それらの吟味を行う上では、表を作り、記述することで論理的に考えやすくなる。

メリットデメリット

たたかう

メリット

・アテーナイの伸長を止められる

アテーナイは、ヘラスの中で日に日に勢力を伸ばしている新興国である。一方でラケダイモーンは、アテーナイが伸長する前から大きな勢力であったことが見て取れる。ラケダイモーンにとって、これまで圧倒的な力を持ってヘラスに君臨していたのに対し、アテーナイが力をつけてきていることは脅威である。

コリントス使者の言葉からもわかるように、ラケダイモーンは積極的な勢力拡大政策などは行っていない。他方、このままアテーナイを放置すれば、コリントスはアテーナイの手に落ちるであろうし、さらに勢力が拡大すれば、ラケダイモーンよりも大きな勢力になる可能性もある。そうなってしまえば、ヘラスに君臨する二大勢力という均衡さえも破れる可能性があるため、どこかで手を打たねばならない。したがって、ここでコリントスに手を貸し、共に戦うという選択肢を取れば、アテーナイの勢力拡大を防ぐことができる可能性がある。

・同盟国であるコリントスを助けられる

同盟国であるコリントスをこのまま放置すれば、アテーナイの手に落ちてしまう。このことは、大事な同盟国を一つ失うことを意味し、それは間接的に自国勢力の衰退を意味する。その意味で、コリントスに手を貸し、共に戦えばコリントスを助けられると同時に、自国勢力の維持にもつながる。

デメリット

・戦争に巻き込まれてしまう
→勝利できるかはわからない

同盟国であるコリントスに対し、積極的な支援を行えば行うほど、大きな戦争になることが予想される。アテーナイは強大であり、ラケダイモーンが全力で支援し、開戦を決意したとしてもアテーナイを退けられる保障はなく、むしろコリントスを失う以上の痛手を追う可能性もある。

・もし戦争に勝てたとしても、国として疲弊する
→外敵の脅威に再度晒される可能性がある

ヘラス諸国は異民族ペルシアの振興を退けたばかりである。ここで、アテーナイと開戦した場合、もし勝利できたとしても、ラケダイモーン側も大きな痛手を負うことが予想される。それは人的犠牲者や経済的損失も計り知れない。そのように戦争後の国が疲弊した状態を見計って再度ペルシアなどの外敵に狙われないとも限らない。開戦を決意したとしても戦争後のリスクまで考慮する必要がある。

たたかわない

メリット

・戦争をしなくて済む

アテーナイとの戦争は大きな損失を生むことが予想される。その犠牲を払わなく済む。

・勢力を伸ばしているアテーナイと対立関係を深めずに済む

現在のアテーナイとラケダイモーンの二つの都市国家は、対立しているものの現在は休戦協定を結んでおり、戦争状態にはない。このまま休戦状態を継続することができれば、いつか和平を結べる可能性もあり、無闇やたらに対立を深めなくて済む。

デメリット

・同盟国であるコリントスが、アテーナイに負け、侵略される可能性が高い
→アテーナイの勢力拡大につながる

同盟国であるコリントスをこのまま放置すれば、アテーナイに敗北、もしくは降伏を選ぶであろう。その場合、コリントスがアテーナイの勢力となることが予想され、結果的にアテーナイの勢力の拡大につながる。

・同盟に対する不信感が高まる
→コリントス以外の同盟国に対しても不信感をうみ、離反を助長する恐れがある。

アテーナイの強大化に対し、脅威を感じた年はラケダイモーンを後ろ盾にしてそれに対抗していると記述がある。つまり、ラケダイモーンの同盟国はコリントス以外にも多数存在することが予想される。

しかし、コリントスの危機に対し、共に戦うという選択を取らなかった場合、他の同盟国からの信頼をも失う可能性が高い。そうすると、ラケダイモーンからアテーナイ側に謀反する都市国家が出てくる可能性がある。

第3の選択肢

第3の選択肢として、例えばコリントスとの同盟を最低限維持しながらも全面的な開戦はせず、物資支援や救護支援のみに止める、といった可能性もありえる。その場合には、「たたかう」「たたかわない」というそれぞれの選択肢のメリットデメリットが混在するため、それらを棲み分けする必要がある。

上記の場合であれば、物資支援などは行うため、最低限同盟としての役割は果たすことが可能かもしれないが、コリントスはアテーナイに敗北する可能性が高く、アテーナイの勢力拡大は止められない、ということになる。

論証の構成

それぞれの選択肢のメリット/デメリットが整理できたところで、あなたの意見はどのようなものだろうか?

論証の構成として

①自身の立場を明確にたうえで、その立場をとるべきだと考える根拠を書く

②自身の立場をとったときに考えうるデメリットに関して、そのコストやリスクを吟味する

といった構成がオーソドックスなものとなるだろう。

具体的事例から考えてみよう

日米同盟

日本の安全は日米同盟によって守られている。今回のラケダイモーンとアテーナイの勢力図は現代の国際社会で置き換えると

ラケダイモーン=アメリカ

アテーナイ=中国

と想定できる。アメリカの同盟国という意味で、

コリントス=日本

として捉えた場合どのように考えられるだろうか。

中国と日本において衝突が起き、戦闘状態が起き、日本がアメリカに援助を要請している、というような構図になるだろう。実際に中国は国際法上日本の領海である地域に、度々軍艦を走らせる領海侵犯を繰り返していることなどを考えると想像しやすいだろう。

このような状況になった時、アメリカは日本を支援するだろうか。もし支援をしないという選択をした場合、アメリカの国際社会から信用は地に落ちるだろう。他方で、中国との全面衝突は回避しなければならないというジレンマを抱えている。

日ソ中立条約

そもそも「同盟」を一方的に破棄することなんて許されるのか?と考える人もいるかもしれない。この問に関して示唆を与えてくれるのが1941年に有効期限を5年として日本とソ連の間に結ばれた日ソ中立条約だ。

日ソ中立条約では、両国がお互いが第3国に攻撃された場合には中立を維持するというものだ。しかし45年4月にソ連は不延長を通告、8月8日に破棄し満州に侵攻した。このことは、条約とはただのお互いの信頼関係以外の何にも制限されないことを意味する。この歴史は国際条約が、どちらかの一方の国が遵守するメリットを感じえなくなった時には破棄されうるという脆弱性を示している。

 

解答例

【2010 慶應法学部 小論文 解答例】

アテーナイが着々と帝国主義的に膨張する中で、ラケダイモーンの同盟国であるコリントスはアテーナイと戦闘状態に入った。このような状態において、ラケダイモーンはコリントスを救うため、また国際秩序の維持のためにアテーナイと開戦すべきである。その理由として2つあげる。第一に勢力を拡大するアテーナイの脅威に対抗するため、第二に国際社会における、特に同盟国からの信頼を維持するためである。

まず、アテーナイの勢力拡大を阻止するために、戦闘状態にあるコリントスを見過ごすことはラケダイモーンにとって得策ではない。異民族ペルシアをヘラス同盟軍で退いた後、ヘラスではアテーナイとラケダイモーンという2つの勢力が対立している。アテーナイは急速に勢力を拡大させており、その手はラケダイモーンの同盟国であるコリントスにまで伸びている。このままコリントスに支援を送らなかった場合、コリントスはアテーナイの手に落ちるであろう。このことはアテーナイの勢力拡大を意味する。また、同盟国を見捨てた国というレッテルをラケダイモーンは国際社会から貼られてしまえば、その同盟国がアテーナイに謀反する恐れもある。このようにコリントスに支援を送らないことのデメリットは大きい。

他方で、アテーナイと開戦したとしても勝利できる保障はない。アテーナイはラケダイモーンと同程度の勢力を持っており、全面的な戦争に陥った場合にはたとえ勝利できたとしても大きく疲弊する可能性が高い。国力が弱っているタイミングで、第3国から侵攻される恐れもあり、無作為に戦争をすることは危険でもある。だが、このままアテーナイの伸長を許してしまえば、次第にヘラスはアテーナイによって支配される可能性も高い。

ヘラスにおける二大勢力による均衡を良しとするのであれば、アテーナイにむけて「開戦の意図」のみ伝えるという選択肢はあり得る。そもそも戦争とは、経済的な利潤や勢力拡大を目指して行われるものだ。アテーナイ側もラケダイモーンとの全面戦争に陥った場合、大きく国力が疲弊するのは目に見えている。したがって、ラケダイモーンがアテーナイと開戦する意図を伝えることで、戦争に伴うリスクを認知し、結果的に均衡が保たれる可能性がある。したがって、戦争を起こさないため、同盟国を守るためにあえて開戦を決意した上で、いつでも停戦できる準備を行うことが最善である。

慶應法学部小論文2010年度〜2020年度解答と解説

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