慶應法学部小論文

2015 慶應法学部小論文 生物多様性と関係価値 解答と解説

brown squirrel

2015 慶應法学部小論文 
生物多様性と関係価値 
解答と解説

2015年慶應法学部小論文のテーマは「生物多様性と関係価値」でした。

価値の中にも「使用価値」「関係価値」と言った言葉が出てきます。これはもともと経済学で使われる用語で、「価値論」と呼ばれるものです。マルクスが資本論において資本主義を批判する際にも用いられました。

今回の小論文では、生物多様性についての議論がなされますが、あくまでも「価値」の話をしているんだと認識することが重要です。

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設問の解説

次の文章は「生物多様性」を題材に論じたものである。著者の議論を400字程度でまとめ、人間社会における「関係価値」について具体例を挙げながら論じなさい。

ポイントは

「関係価値」について議論をしなければならないという点です。

出題者の意図として、生物多様性の議論から「関係価値」について知ってほしい!ということをこの段階で読み取れるかどうかが重要です。そこを念頭に置かなければ、途中で何が知りたいんだっけ?となってしまいます。

要点の解説

生物多様性の価値とは何か

今回の小論文では「生物多様性」の価値について言及がなされました。

本論の最初の問として「自明だ、と思っていることを説明するのは難しい、生物多様性の大切さもそうである」書いてあります。

「生物多様性」はなぜ守られなければならないのでしょうか。言い換えれば、生物多様性の「価値」とはなんなのでしょうか。

地球温暖化などの影響によって絶滅の危機に瀕している生物が多くおり、それらを守りたいと思うのは当然のことのように思えます。

しかし、実際に現実には保全はなかなか進まず、地球上で多くの種が絶滅しています。

世界で生物を守っていくためには、世の中に「生物多様性」を守る必要性、つまりは「価値」を訴えなければなりません。

グローバルコモンズとしての価値

まず生物多様性の価値として「グローバルコモンズ」、つまりは人類共通の遺産という側面が挙げられています。

つまり、生物多様性というは地球上の共有公共財であるという主張です。

これは普遍的価値と同じで、なぜ守るべきか、と言われれば「守るべきだから」ということです。生物多様性を保全することに対して、理由なんていらない!というのがグローバルコモンズとしての生物多様性です。

しかし、グローバルコモンズとしての側面のみを主張することは、人々を動かすインセンティブ(動機付け)につながりづらいという側面があります。なぜなら、生物多様性を守った時に得られるメリットが感じづらいからです。

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生物多様性の交換価値

本論では、生物多様性を保全/利用することには交換としての価値、つまりは「経済的な価値がある」という議論です。

交換価値とは、市場の中で相対的に決定される価値を指します。貨幣を介して決定される価値とも言い換えることができます。

これはどういう意味かというと、生物多様性を保全を推進し、特に遺伝子工学などの領域で生物多様性を考えると、生物多様性は「利用できるもの」になります。つまり、生物多様性が「商品」になるのです。商品ですから、そこには投資の意味合いも大きく、現在の国際社会ではこのような生物多様性の経済価値が最重要視されている

したがって、現在の国際社会において、「生物多様性」を守るのは「経済価値があるから」ということになります。

交換価値としての生物多様性とは、生物多様性を守ることが、遺伝子工学の発展といった経済価値があるということを指します。

使用価値としての生物多様性

「誰が守るのか:地域社会の役割」の段落では、生物多様性には、「使用価値」があるという議論がなされます。

使用価値とは、絶対的な価値です。例えば、食べられる、穴を開けられる、住める、と言った具体的な価値です。

お金はお金だけでは何も使えませんから絶対的な価値はありません。これが使用価値です。

では、生物多様性における「使用価値」とはなんでしょうか。

本論にはこうあります。

「地域社会は、(省略)経済価値があるからではなく、生活の至る所で生物多様性の恩恵を受けていたため、大切にしてきたのだ。地域の人々が認めたのは使用価値である。」

生物多様性の恩恵とは例えば、外に遊びに行ったら公園があり、メダカが泳ぎ、草を見て学ぶ、そう言った「使用」としての価値です。

筆者は、このように直接的に恩恵を受けてきた、地域社会の役割を重要視しなければならないと述べているのです。

関係価値としての生物多様性

地域社会においては、生物多様性には使用価値があると述べます。筆者はこのような繋がり自体を価値として捉え、「関係価値」という概念について主張します。

たとえば、生物多様性の保全と利用の主体が地域社会であるということは、生物多様性保全を促進する主体は地域であるということです。そうなれば、国は保全を促進するために地域社会に補助金を出すかもしれませんし、政策を打つかもしれません。このことは地域社会のエンパワーメントにつながるという主張です。

このような、生物多様性自体の価値(使用価値/交換価値)だけではなく、もっと別の価値(関係価値)があるのです。それが、「繋がり」としての価値です。

この関係価値は、生産者-消費者が分断されている距離を縮めることに役立つといいます。

関係価値の具体事例

「関係価値」とは「それ」自体の価値(交換価値/関係価値)ではなく、もっと別の価値として「繋がり」の価値があるという議論でした。

今回の小論ではかなり発想力が求めらましたが、そこまで難しく考えることはありません。

生物多様を考える上で、関係価値がある。他に関係価値ない?ってことです。

例えば医療における介護とかでも関係価値はあります。例えば介護があるから、必然的に家族とコミュニケーションとる機会が増え、それによって家族の関係性がよくなったりすることなども関係価値です。学校の役割とかでも、勉強するっていう「使用価値」よりも「関係価値」の側面が強いですよね。

他にも多くの事例があると思いますが、今回は、フードバンクを事例に関係価値について紹介します!

フードバンクと関係価値

フードバンクとは、食品企業のフードロス問題の解消と、貧困者支援を成し遂げるための福祉活動として行われている慈善活動です。廃棄食品などを、地域の公園などで炊き出しのような形で、食に困っている貧困者や、家で十分に栄養を取れない子供たちなどに提供しています。

他にも、同じような活動として、NPO団体による子供食堂なども挙げられます。

このような地域社会や、NPOの活動は、「食を満たす」という側面以外にも「コミュニティの形成」という重要な役割を担っています。

食の支援を通して、人々がそこに集まり、地域のつながりが取り戻されているのです。

この事例は「使用価値」や「交換価値」ではない別の価値(関係価値)によって豊かになる価値の一つでしょう。

特にこのような、「繋がり」に関しては社会保障領域や地域活性化と言ったトピックを題材にすると考えやすいです。

解答例

筆者は生物多様性には「使用価値」と「交換価値」に加え、「関係価値」があると述べる。そもそも生物多様性を保全する生物多様性条約においては、「保全」と「利用」という二つの目的が掲げられていた。今日の動向は、生物多様性の経済価値に言及し、市場メカニズムによる保全を協力して行おうとするものである。そのため、生物多様性は当初は生物学者が企画したグローバルコモンズというよりも、グローバルな商品という交換価値に重点をいて位置付けとなった。一方で、地域社会では、生物多様性について、使用価値を認めてきた歴史がある。この議論は、保全や利用という価値よりも前に、関係価値と呼ぶべき価値を生物多様性に探る必要があるというものだ。生物多様性における関係価値とは、生物多様性の保全と利用にあたって、地域と地域、地域と世界の関係が相互に繋がっている重要性を示した。今日のグローバル経済における交換価値の枠組みにおいて、生産者、消費者が分断されてしまっており関係価値によってその距離を縮める考え方が求められている。

 確かに、モノの価値を捉えた時、使用価値と交換価値以外にも、生産者や消費者と言った地域とのつながりを重視した関係価値は重要だろう。例えば、貧困支援の一環として行われているフードバンク活動は、生活に必要な「食」を満たすという使用価値に加えて、地域コミュニティの形成という関係価値の側面がある。

フードバンクとは、食品企業のフードロス問題の解消と、貧困者支援としての福祉活動である。廃棄食品などを、地域の公園などで炊き出しのような形で、食に困っている貧困者や、家で十分に栄養を取れない子供たちなどに提供するものだ。同じような活動として、NPO団体による子供食堂なども挙げられる。この活動では、食を通して、希薄した地域でのつながりが生まれ、コミュニティ形成が生まれている側面がある。

使用価値としてだけではなく、関係価値としての側面が強いフードバンク活動は、食の保障だけではなく、地域活性化に寄与しており、サードプレイスとしての機能も併せ持つ。このことは、例えば孤独死問題や、虐待家庭で苦しむ子供達を救う手立てにもなる。だからこそ、地域コミュニティが希薄化していると言われる現代において、「関係価値」の重要性は今後さらに高まっていくだろう。

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